テンカラの鬼 榊原正巳 テンカラの世界

証言1

石垣尚男

テンカラ先生の名で知られるテンカラ普及委員会会長

石垣尚男

1947(昭和22)年生まれ。

愛知工業大学教授。

東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒。医学博士。

任天堂『DS眼力トレーニング』監修者。趣味はテンカラ。

テンカラ先生、テンカラ大王とも呼ばれる。

著書に『科学する毛鉤釣り』など多数。

 

道具 竿 4m~4、5m SHIMANOズーム 本流テンカラ

   ライン フロロカーボンレベルライン 4号 5、0~7、0m

   ?毛鉤

 

 

 

日本の伝統的毛バリ釣り ーテンカラー

テンカラは日本の渓流魚であるアマゴやヤマメ、イワナを毛バリで釣る方法である。

テンカラはもともと職業漁師の釣りであった。日本では昔から、山間部の住民のためのタンパク源確保のために職業漁師がおり、毛バリを使って渓流の魚を釣ることを仕事としていた。日本においてテンカラがいつからあったか不明である。現在のところ、今から130年前の文書がテンカラの存在を示すもっとも古いものであるが、それよりはるか以前からあったことは間違いない。私はおそらく1000年以上前からあったと推測する。現在ではテンカラの職業漁師はいない。テンカラはゲーム性のあるスポーツフィッシングとして多くの人が楽しんでいる。

 

 テンカラのタックルは大変シンプルであり、フライフィッシングと大きく異なる。

竿、ライン、そして毛バリだけである、これは永い伝統をもとに日本の渓流にマッチしたスタイルとして導き出された。現在ではテンカラのタックルは改良が重ねられている。

テンカラ専用の竿は3、5m~4、0mのカーボンロッドであり、また、フロロカーボン製のテンカラ専用ラインが多くのメーカーから発売されている。フライフィッシングの竿に比較してテンカラの竿は長く、またラインは軽い。これによりフライフィッシングのようにラインが水につくことはないためメンディングを必要としないで毛バリを自然に流すことができる。

 

 フライフィッシングと違うのは毛バリを重要視しないことである。特定のパターンはなく、胴とハックルだけのシンプルな形である。12番サイズのハリが多く用いられる。

毛バリを重要視しない理由は日本の渓流の流れが速いことである。流れが速い場合には毛バリは魚のテリトリーをすぐに流れてしまう。このため、魚は毛バリをセレクトする時間的余裕がなく、餌のような形をしたものであればくわえてしまう。したがって毛バリの色や形は重要ではない。さらに魚の視力は悪く、毛バリの細部を見ることができないこともシンプルでよい理由の一つである。

 

 日本人は繊細な釣りが好きである。さらに道具に依存しないで不足を技術でカバーすることが得意である。テンカラではリールも、オモリも、目印(マーカー)も使用しない。これらに依存しないでテクニックでカバーする。オモリを使用しないで毛バリを沈める方法なども可能である。さらにテンカラ特有のさまざまなテクニックを駆使する。

 現在、日本の伝統的な毛バリ釣りが「Tenkara」として世界中に広まっている。どこの国にも渓流がある。そして渓流魚がいればテンカラで釣ることができる。テンカラは簡単で、しかもお金がかからず、そしてよく釣れる。こんなにシンプルなテンカラで釣れることを知ってほしい。私は多くの人がテンカラを楽しんでハッピーになることを願っている。

 

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テンカラマジシャンMr.榊原

 私のテンカラキャリアは37年である。多くのテンカラの友人がおり、また多くのテンカラ名人(エキスパート)を知っている。多くのテンカラ名人の中で、榊原さんはNo.1である。日本で彼ほどのテクニックを持った人を私は知らない。私も永いキャリアがあるので、多くのテクニックを持っているが、残念ながら彼にはかなわない。彼はテンカラのマジシャンである。私は彼の釣りから教えられることがたくさんある。彼の優れたテクニックを2つ挙げてみよう。

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1. 正確なキャスティングテクニック

 キャスティングが正確だけでなく美しい。彼のキャスティングによってラインは美しいループを描く。フライフィッシングと異なりテンカラで使用するレベルラインは非常に細く、しかも軽い。このため狙ったポイントに正確に毛バリを落とすキャスティングはもっとも重要なテクニックである。向い風、横風のときのキャスティングは難しいが、彼はむしろ風を利用したキャスティングによって正確にキャスティングすることができる。

 テンカラは渓流の規模によってラインの長さを使い分ける。彼はもっとも長い場合では12mのラインを使用する。このような長いラインの正確なキャスティングはきわめて難しいが、彼は狙った場所に毛バリを落とすことができる。これは彼しかできない。キャスティングマジックを見るようである。

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2. 状況でテクニックを使い分ける

 渓流の規模は様々である。狭い川もあれば広い川もある。また天候や水の状態で魚の反応も常に同じではない。日本の渓流には大勢の釣り人が訪れ、釣った魚をほとんど持ち帰る。このため魚は非常に神経質で警戒心が強く、簡単に魚を手にすることはできない。

 テンカラでは水面あるいは水面直下に毛バリを流し、毛バリをくわえる魚を見て掛ける方法が一般的である。この点はフライフィッシングのドライフライと似ている。しかし、警戒心の強い場合には魚は水面に出ない。ではどうすればいいのだろうか。誰でも使うテクニックでは通用しない。?そこで彼は様々なテクニックを使い分ける。その一例としてオモリを使用しないで毛バリを沈めるテクニックがある。水面下10cmに毛バリを流す方法、さらに毛バリを1mぐらい沈めて流す方法は彼の得意技である。これは誰も真似することができない。さらに流れに逆らって毛バリを1ヵ所に止めるテクニックや、毛バリをあたかも生きている虫のように操作する技も見事である。

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 本当によく釣る。そこでは釣れないだろうと私が思うところでも彼なら可能である。

 決して大げさに言っているわけではない。まるで魚にマジックにかけたように釣る。おそらく私の知らないさまざまなテクニックと状況判断があるのだろう。彼のテンカラテクニックが世界に紹介されることを願っている。

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